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[雨は遠いそらの上] 記事数:109

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連続踏破・盛金富士編

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11時20分頃に登山道入り口に着く。竹の杖が何本か並んでいて、一本拝借する。何だかとても心強い。富士神社の鳥居(頂上にあるらしい)をくぐり、木々に囲まれた道を登りはじめる。
それほど急ではないけれど、階段があったりでこぼこしたりしている道を、えっちらおっちら登っていく。さっきまで引いていた汗が、またじんわりと出てきた。そのうちに杉林が一面に広がり、道は薄暗くなる。15分くらい歩いただろうか、地元の小学生が書いた看板を発見。山頂まであと30分か、まだまだだ。道は階段になり傾斜が増している。ぐいぐいと尾根を上がっていく。

道がぐんと右に曲がり、5分くらいで休憩所に着く。ここにベンチがあり、「山頂まであと20分」の看板がある。ここから道は南西のほうを向き、山頂まで一気に登りつめることになる。このあたりに来ると雪が残っているようだ。でも硬く凍ったままで薄く残っているだけなので、ツルッと滑ることに注意すれば歩くのに支障は無い。
さらに5分くらいで「あと10分」の看板が。「ガンバ、ガンバ!」と看板の主は応援してくれている。ガンバってんだよこっちはよ!しかもいったい何年前に建てた看板なんだ、と優しく詰問しながら、山頂への分岐を右に曲がったころ、上のほうで人の声が聞こえた。うおっ、人が来てるのか!安堵と不安が胸をよぎる。仰ぎ見ると女性のようだ。ここからはごつごつした岩場を登っていくのだが、女性にとっては結構タフだと思うのだけどスイスイ先へ進んでいるようだ。負けじとぐいぐい登っていくと、山頂が見えた。12時前に山頂到着。
 
女性二人組がぼくの直前に到着していて、荷物をベンチに置いている。「こんにちは」と挨拶をし、まず富士神社の祠を参拝し、一息つく。山頂はさほど広くなく、熊の山よりも狭い。どうしようかな…と思っていると、女の人たちが北東の男体山をバックに写真を撮っているので、お二人で写してあげる。オリンパスのデジカメだったので、ちょっと嬉しくなる(ぼくもオリンパスのデジタル一眼を携えているのだ)。
それから自然に話がはじまって、いろいろなことを聞く。その女性はかなりのベテランで、「南は屋久島から北は利尻まで」を奔放に巡る猛者だということだった。もう片方の女性は友人で、一緒に山を回っているそう。どうりで足取りが軽いと思った。そのお友達によると、海外の山にまで足を伸ばしているそうだ。
今日も足馴らしに登ってきたのだそうだ。男体山(最近のお目当ての山なのだそうだが、今年は雪に埋もれていてまだ登れそうにないみたい)のことやこのあたりの周囲の山についていろいろ聞かせてくれた。
「とくにこのあたりでは男体山が良い、あれを縦走するのが。8時間くらいかけて歩くのよ」としれっと仰るのでびっくりする。さすが猛者…ぼくには全然無理です、と言うと、「若い人に登ってもらわなくちゃ山が寂れちゃうからねえ。最近若い人、山登らないでしょう。頑張ってちょうだいね!」と言われてしまう。ぼく本当に、近所の低山ばっかり登ってる初心者もイイトコなんですけど…。
 
いったい若さとは何なのだろう、と思ってしまう。彼女はぼくと比べてあらゆる面で勝っている。一般的に年齢は少ないほうがアドヴァンテージがあることになる(そしてまあ、言うだけ野暮だがその点でいえば彼女に対し結構なアドヴァンテージを有する…が、そんなこと無意味だ)が、しかし若さから無鉄砲と向こう見ずを引き剥がしたら、ただの経験不足だ。そして、今のぼくがまさにそれである。山においても、人生においても。ぼくはまさに未熟者然として、彼女たちの話に圧倒されっぱなしだった。
  
でも、こうして山の話をしたり滝の話をしたりカメラの話をしたり…今日偶然にはじめて会った人だけれども、興味の合う話を人とするのがこんなに楽しいことだとはすっかり忘れていた気がした。ああそうか、ぼくにはこれが足りないのかもしれないな、と思った。知らない領域の話をきき、圧倒させられたり考えさせられたりすること。つまり、気の合う仲間との交流が。良いな、と思う。でもうまくやれるのかどうかはわからない。ぼくは自分から他人を遠ざけ、無碍にしてしまうところがある。結局のところ、ぼくは他人があまり得意ではないのだ。
  
30分くらい話し、じゃあまた、どこかで行き会えると良いね…と(決められた言葉のように)言って彼女たちは来た道を下りていった。別れのときにも、ぼくは何だか口ごもってしまって何かを叫ぶように言い放ったまま、もごもごと彼女たちの背中を見送った。自分はあまり良い性格ではないということについて少し考える。

でもそんな野暮なことやめようじゃないか。何しろぼくは山の頂上にいるのだから。360°の展望をぐるりと見回し、あたたかな光の中ベンチに座りおにぎりを食べる。少し風は冷たいけれどこんなに気持ち良いことは無い。こんなところで暗いことを考えるなんて、野暮にもほどがあるってもんだ。青空にくっきりと映える松の木と、そのあいだから見える久慈川の曲がりくねった流れ。北東には相変わらず男体山の威容。南には朝房山と山方の町並み、それから遠くに県庁。木が茂っているぶん熊の山よりも開けてはいないが、それでも実に良い眺めだ。
12時55分ごろ、来た道とは逆の方向に下りていく。こちらの道は急な下りが多く、それほど整備もされていない。展望もよくないのでサクサクっと下り、25分ほどで山のふもとに出る。
  
北アルプスや大雪山…。ぼくにも登れるというのか?何もかも中途半端なぼくにも。わからない。テレビや記事で目にしていても、自分が登るなんて殆ど考えたこともなかった。こうして低山を登りはじめた今でさえ、そんな山登りたいとも思わなかった。
でも、山頂で出会った女性の何気ない「頑張ってちょうだいね」という一言が、意外な励ましとなってぼくの気持ちを変えさせている。そういう山に登るにはいろいろと準備が必要だろう。シュラフとか食糧のこととか、ちゃんと考えなくちゃならないことも出てくる。面倒だ。でも登ってみたい。…ような気がしてきた。
ぼくも、彼女のようにいきいきと日々を過ごすことができるようになるのだろうか。ということなのだ。ぼくの無為な日々が、(結果として)無駄になることはないのだろうか。そのことについて、ぼくは今までよりも真剣に考えている。その前に(その為に)やらなくちゃならないことは山積みになってはいるのだけれど。
  
  
*盛金富士…標高340.7m。水郡線下小川駅のすぐ西に位置する。久慈川をはさんで熊の山と向かい合っているので、ふたつセットでハイキングコースとして親しまれている。山頂にはベンチに隠れるようにして三等三角点。春、久慈川のほとりの谷和原青少年の家に並んだサクラが咲く頃には絶景だろう。再訪したい。

  
  
  
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» Tags:山行き,

Trackback(0) Comments(2) by 雨|2008-02-21 16:04

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