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「本気で遊ぶ まちの部活」はゆたり出版の「ゆたり文庫 地方に暮らす。シリーズ03 本気で遊ぶ まちの部活」に再編集し収録されています。書籍はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[地方に暮らす。[前橋○○部]] 記事数:10

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第二話|次々と生まれる部活

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 群馬県の自動車保有台数は100人中68.39台と、全国第1位(2015年自動車検査登録情報協会調べ)。公共交通が発達していないため、通勤の足はマイカーという人がほとんどです。
 そんななか、“通勤は自転車”という共通項で結ばれた「自転車通勤部」のメンバーと出逢った藤澤さん。本人も大の自転車好きということですぐに意気投合、部員の一人となりました。「前橋にUターンしてきて初めて、“面白い!”と思える奴らに出逢えた」と当時を振り返ります。


岡田達郎さん、愛称はマンちゃん(左)と岡正己さん




「マンちゃんと岡とボクで立ち上げようよ!」

 自転車通勤部部長の岡田達郎さん(以下、愛称の「マンちゃん」)は美大出身で、当時は前橋市内のデザイン事務所に所属するグラフィックデザイナー。「奇想天外な発想力には驚かされっぱなし。マンちゃんがその場にいるだけでワクワクする」と藤澤さんは言います。
 副部長の岡正己さんは、まえばしCITYエフエム「M-WAVE」に勤務し、抜群の企画力と広い人脈を持つ参謀タイプ。マンちゃんも岡さんも前橋→東京→前橋のUターン組で、地元に戻ってきた当初は、「前橋が退屈で仕方がなかった。人とのつながりにも飢えていた」(岡さん)という枯渇した思いも、藤澤さんと一緒でした。
 自転車通勤部では独自に自転車のイベントを開いたり、『チャリキ本ガン』という小冊子を発刊したり、ユニークな活動を展開していました。1つのイベントが終わると、次はさらに面白い仕掛けを――、と模索するメンバーたち。そんな日々が続くなか「自転車通勤、という専門性のある言葉がついた部活では、これ以上の発展は望めないのではないか」と、藤澤さんは考えるようになります。また、限られたメンバーで何かを仕掛けるには時間的にも体力的にも限界があります。「とにもかくにもプレイヤーを増やしたい。ゼロからスタートするのが難しいのであれば、みんなが活用できるプラットフォームをつくってしまえばいい!」と思い立ちます。


自転車通勤部で発刊していた冊子


 発想したら、それに名称を付けて、ロゴマークをつくる。これはフリーランスのデザイナーとして広告の仕事をしていたときからの藤澤さんの習性です。「名称は『〇〇部』でいこう。すべての前橋市民に自分事として捉えてほしいから、頭に前橋をつけて『前橋〇〇部』ではどうだろう!」
 ロゴマークは、前橋市のキャッチフレーズ「水と緑と詩のまち」とマッチするように青と緑を使い、「東京ほどは洗練されていないが、県庁所在地として程よい垢抜け感のあるデザイン」を心がけてつくりました。
 2012年2月21日、マンちゃんが勤務する事務所をたずねた藤澤さんは、彼にロゴマークを見せながら、「マンちゃんと岡とボクで、前橋〇〇部を立ち上げようよ」と切り出しました。ニッコリ微笑んだマンちゃんから返ってきた言葉は「かっこいいじゃん!」。この日が前橋〇〇部設立記念日となりました。

水と緑と詩のまちをイメージした前橋〇〇部のロゴマーク




合言葉は「月から金を彩ろう!」

 藤澤さんらがまず行ったのは、前橋〇〇部のFacebook(以下、FB)ページをつくること。当時、SNSで最も人気があったのはツィッター、FBは少しずつ浸透し始めてきたころです。「本名と在住地を登録してアカウントをつくるFBは、地域と人をつなげるのに最適なメディア。前橋〇〇部が成功するか否かは、FBを使いこなせるかどうかにかかっている」、それが藤澤さん、マンちゃん、岡さんの一致した意見でした。
 続いては、具体的な部活の立ち上げ作業です。本当は外部の人が立ち上げてくれるのが理想ですが、最初からそれは無理な話。「平日は必ずどこかの部が活動している、そのくらいの数はつくろう。合言葉は『月から金を彩ろう!』だ」と決めた3人。しかしそうは言っても「すべてが初めての試みで最初の2ヵ月間は試行錯誤・暗中模索・五里霧中だった。『前橋徒歩通勤部』や『前橋散策部』など思いつくままの部活を立ち上げたが、いずれも全く注目されなかった」と藤澤さんは振り返ります。
 そんななか、評判を集めたのは毎週火曜、勤務前に喫茶店でモーニングを食べる「前橋朝活部」、毎週木曜、街中の店のランチを食べ歩く「前橋ランチ部」、日時と場所を告知し、みんなで集まってお弁当を食べるだけの「前橋お弁当部」など、食関係の部活です。
 活動の様子は写真に撮り、キャッチーなコピーをつけて、FBに投稿します。例えば、公園でお弁当を食べている写真に「あつまったら、たのしくなった!」のコピー。これだけで、「なんだか面白いことをしているぞ!」という雰囲気が伝わってきます。毎日こまめに投稿し続けることで、「いいね!」の数も、部員の数も確実に増えていきました。


「前橋朝活部」は前橋〇〇部の今後の活動に関するミーティングの場に…



写真にロゴとキャッチコピーを載せて、FBに投稿するスタイル




出会うハズの無い人同士が出会い、
交わり、新たな力に!


 初めて、外部の人の手で生まれた部活は「前橋バッティングセンター部」です。部長は前橋中心商店街にある寺院「大蓮寺」の副住職・蓮池俊光さん。彼は弁天通青年会の会長で、長い間、前橋の街おこしに尽力し続けている人です。
 「草野球チームでマンちゃんと一緒だったので前橋〇〇部のことはよく聞いていた。面白そうだと思い、遊び半分でFBに投稿してみた」と蓮池さん。『前橋バッティングセンター部をつくりました。〇月〇日〇時、前橋バッティングセンターに集合!』、この呼びかけに本当に人が集まるのか心配でしたが、当日は男女7人が集合。みんなでバットを振り、気持ちのいい汗を流しました。でも、「これが街おこしなのか…?」と蓮池さんは疑問に思います。「前橋〇〇部ができてから、明らかに、今までとは違うタイプの若者たちが中心商店街にやってくるようになった。藤澤くんたちのSNSを使った戦略はすごい。でも、あまりにも行き当たりばったりな気がする」。一度の活動で「前橋バッティングセンター部」は自然消滅することに…。
 でも、そんなケースがあっても良いのです。「思い立ったらすぐやろう。ダメだと思ったり、飽きたりしたら、すぐ止めよう」、これが前橋〇〇部の一番の特徴なのです。組織づくりが目的ではなく、あくまで生活の延長線上にある「風土風習」を根付かせたいという想いがあります。無くなる部活があれば、生まれる部活もあります。その繰り返しが「根付く」ということなのかもしれません。その後、外部の人たちの手で、「まえばし×ふくしま部」「前橋トレラン部」「前橋馬旨部」「前橋オトナ勉強部」「前橋ロンドン部」「前橋外国カブレ部」「前橋嫁いだ部」など次々とユニークな部活が立ち上がり、活動を開始。FBページも連日、大賑わいです。「日常おこりうることすべてを部活として発信していきたい」、岡さんが思い描いた試みは確実に実を結んでいきます。


前橋バッティングセンター部部長の蓮池俊光さん


 そして発足から7ヵ月後、前橋市街地の旧国際交流広場ホールで、「前橋全部」が華々しく開催されました。第一部は全15の部活のプレゼン大会、第二部は交流会というプログラム。ここでは今まで出会うことの無かったハズの人種が交わり、その場でどんどん新しい部活が生まれていきました。今までに無い化学反応を目の当たりにし、「定期的に各部活のメンバーが集結する機会をつくろう」と決めた藤澤さんたち。それが、2012年から今日まで続いている、部活の枠を超えた忘年会「前橋忘年部」が生まれるきっかけでした。

前橋〇〇部の学園祭として開催された「前橋全部」


(文=阿部 奈穂子)

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