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第一話〜第十九話はゆたり出版の「かさまのうつわ」に再編集し収録されています。「かさまのうつわ」はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[かさまのうつわ] 記事数:19

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第六回 佐藤りぢゅうさん

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 今回のかさまのうつわは、器の作者探しから始まりました。
水戸市常磐町にあるRavi provencauは、富田尚孝さん・千夏さんご夫妻がオーナーシェフの南仏家庭料理のレストラン。奥様の千夏さんに笠間焼のお気に入りの器について伺ったところ、大きな花が描かれた緑色のカップを見せてくださいました。

 「これは数年前笠間で購入したものなんですが、とても気に入って毎朝カフェオレを飲むのに使っています。どなたの作品かわかったら、その方のお皿にお料理を盛りつけてみたいです」
 カップの写真を元にたずねたところ、それは佐藤りぢゅうさんの作品では?という複数の意見が。調べてみると、それはまさに笠間の陶芸家・佐藤りぢゅうさんのものでした。





 りぢゅうさんの自宅・アトリエ兼ギャラリーは、陶芸家の多く住む笠間市本戸の小高い丘の上にあります。作品が所狭しと並ぶギャラリーは天井が高く、山小屋のようにウッディで気持ちのいい空間。その建物を取り囲むように、奥様が丹精している多肉植物がディスプレイされています。





 東京で生まれ育ったりぢゅうさん。お父さまが靴職人で、ものを作ることはいつも身近にあったといいます。高校を卒業するころ、りぢゅうさんは美術館で志野焼に出会います。
 「それまで焼き物と関わったことはなかったんだけど、その志野焼を見たとき、何かこう心をつかまれるものがあって。焼き物の産地の岐阜に行って、弟子入りを志願したんです」
 陶芸未経験のまま産地に飛び込んだりぢゅうさんですが、そこで「弟子入りをするにしても少し土に馴染んでからの方がいい」というアドバイスを受け、東京デザイナー学院の陶芸科に学ぶことに。2年間土と向き合ったあと向かったのは、知り合いのアーティストも多く住む笠間。1980年のことでした。

 「そのころは、まだ笠間にも職人さんがいて。一日何百個と器をひいて納めていました。段々とその需要もなくなって職人さんもいなくなってしまった。今は作家が大勢いる笠間ですが、笠間焼の定義はなくて“自分焼き”が集まって笠間焼になっている、そんな気がしますね」
 りぢゅうさんの器の特徴は大胆なレリーフや繊細に器の表面を埋め尽くす刻文といった装飾、そして多くの作品に使われる、吸い込まれるように鮮やかなトルコブルーの釉薬です。「このブルーは酸化銅で出る色なんですが、20年前から何度もテストして手にした色。刻文の模様もこのブルーも、中近東の焼き物のイメージです。中国や韓国の焼き物もいいんだけど、中近東のものに魅かれますね。ヘタウマ なところが面白いと思ったり、逆にアラベスク文様の凄さに圧倒されたり」





 渦をまくように、うねるように施される刻文。この細い線描は針状のもので型に彫り付けていきます。その模様のパターンは一つではありません。「現役で使っているパターンは10前後かな。一つのものだけ作っていると飽きてしまうんです(笑)」。これだけの緻密な模様を彫るには精神力も体力も必要だと思われるのですが、1958年生まれのりぢゅうさん、作品にもご本人にも若々しさがあふれています。
 「オブジェを作ることも好きです。作り始めると、時間も忘れて入り込んでしまう」。ギャラリーの一角には以前譲り受けた木を彫り出してつくったという高さ3メートルほどの作品が。また過去には大人が抱えてなお余りあるほどの大きさの焼き物のオブジェ(それは動物の頭であったり、古代生物のような形であったりさまざまです)を作成したことも。

 「小学生くらいのころから、よく一人で上野の博物館に行ってました。オブジェだとか古いもの、それから仏像なんかを見るのが好きでしたね。焼き物、食器に使い勝手・使いやすさを考えるのもいいのですが、私は食器もオブジェを作成するときのように自分の中から出てくるものを形にしたい」というりぢゅうさん。「そして、使ってくれる人の生活の雰囲気づくりに役立てばいいなと思います。生活を豊かにする、生活とコラボレーションする器づくりをしたい」
 幼いりぢゅうさんが心に溜めた古今東西の物たちの印象が、今その作品の中に凝縮されているのかもしれません。




Ravi provencau





 日本三名園の一つ、偕楽園から徒歩2分ほどの住宅街の中にあるRavi provencau(ラヴィ プロヴァンソ)。ランチタイムはご主人の尚孝さんがシェフ、ディナータイムは千夏さんがシェフをつとめます。 普段お店では白い器でランチとディナーを提供していますが、りぢゅうさんのブルーの角皿を見た千夏さんは「わあ、きれいな青ですね!」と笑顔に。
 結婚前は建築士のお仕事をしていた千夏さんですが、10代ではパン屋で、その後も食への興味からレストランなどでアルバイトをするうちに、料理にのめりこんでいきます。
 「2005年にワーキングホリデーでプロバンスに行ったんです。そのとき出会った料理があまりにおいしくて」お料理の道を選びます。それから毎年のように南仏に料理の勉強に行き、またパリのリッツ・ エスコフィエに留学してお菓子の修行もし、水戸の自宅で料理教室を開設。その後2012年、レストランであり、料理教室も開講するRavi provencauをオープンします。

 「南仏は海も山もあって食材が豊富。そして移民がいて食文化も交ざりあうところがあり、そこが魅力ですね。お店で使っている食材はほとんどが地元茨城産の新鮮なものです」。水戸にいながら、プロバンスの別荘のような雰囲気の中、本場仕込みの南仏料理が楽しめるお店。
 この日りぢゅうさんのお皿に盛り付けてくれたのは、スズキのポワレにチアンドレギューム。チアンは陶器、という意味だそう。ナスやトマトを陶器の中に並べ、ハーブやオイルを回しかけてオーブンで焼いたもので、香り高いハーブが食欲をそそります。
 「ブルーが個性的なお皿ですが、お料理を載せてみると映えますね。意外と載せる物を選ばない、なんでも合うお皿なんじゃないでしょうか」
 南仏の空はこんな風なのではないかと思うようなブルー、そこに染み出るオリーブオイルのつやめきが刻文の表情を一層際立たせます。





 「最初に買ったりぢゅうさんのカップ、大胆なひまわりのような花柄が毎朝元気をくれてとても気に入っています。でも、絵柄はダイナミックなのに手に持って飲んでみると、口をつけるところなどの作りが繊細で驚きます。そして何より凄いと思うのは、何年も毎日使っているのに一カ所も欠けたところがないんですよ」
 陶器は、その土の温もりの代わりに磁器よりも柔らかく欠けやすいこともありますが、りぢゅうさんの確固とした造形と焼きの器づくりが使い手の幸せな朝の雰囲気づくりに確かに役立っているようです。
(しばたあきこ)






DATA:

Ravi provencau

茨城県水戸市常磐町2-9-49|Tel.029-291-8727
営業時間|11:30~14:00(L.O.)/ランチ
     18:00~20:30(L.O)/ディナー)ディナーは要予約
定休日|月曜日

>Ravi provencau http://www.facebook.com/pages/ラヴィプロヴァンソ/588822391169674




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