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第一話〜第十九話はゆたり出版の「かさまのうつわ」に再編集し収録されています。「かさまのうつわ」はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[かさまのうつわ] 記事数:19

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第十四回 松本良太さん

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 今は亡き作家の向田邦子さんは器好きでも有名でした。その向田さんが、器選びをする時のことを「店に入ると、肩の力を抜き、なるべくぼんやりと見回し、その時目があってしまったものの前に、まず立ってみるのだ」と書いています。ある日、笠間のギャラリーでそのことを思い出し真似してみた私とぱっと目があったのが、陶器の中になぜか並べられている木の角皿でした。薄いグリーンに波打つ木目。でも、木肌がグリーン?と思って近寄って触れてみると、肌触りがひやりとして持ち重りがし、それは驚いたことに陶器だったのです。





 「木目シリーズ」の器の作者は松本良太さん。一見木製にしか見えない陶器をどうやって作っていらっしゃるのでしょうか。
 「二酸化マンガンと炭酸銅、酸化鉄などを混ぜたものを薄くスライスした土に塗ってはバウムクーヘンのように重ね、塗っては重ねしたものをゆがませて最後に切断すると、こういう木目になるんです」。その切断の方向や力の入れ具合など、また重ねる粘土の厚さなどでも変化に富んだ木目の表現は変わってくるのでしょう。なぜ土で木を表現したのですか?
 「土の限界を超えた新しいもの、土の印象を消したもの、そして意外性のあるものを作りたかったんです」。そうお聞きしてからしみじみ器を眺めると、知ってはいてもやはり本物の木に見えてしまう木目のプレート。この器を使い込むことで現れて来るであろう貫入は、木目とどんなふうに重なるのだろう。想像するとわくわくしてしまいます。「木目シリーズでスライスした土に塗るものはガラス質の釉薬でもありますから、とても剥がれやすいんです。失敗もたくさんして試行錯誤して作りました」





 旧友部町出身の松本さんは玉川大学芸術学部ビジュアルアーツ学科で陶芸を専攻し、笠間に戻って2年間窯業指導所に通った後、向山窯で修業。その後独立して実家の敷地内に工房を構えました。現在は県内の高校の非常勤美術講師も勤めながらの作陶です。
 「週3日教えています。忙しいですが気持ちの切り替えにもなって、かえって陶芸で新しいことが浮かびやすいような気がします」。お話の中で「新しい」という言葉を何度も口にされていた松本さん。技法は伝統的なものでありながら、陶芸を通じての新しい表現を探しています。
「木目シリーズの練りこみの技法はちょっと前からやっていました。せっかく笠間にいるのだから笠間らしいものが作れないかと思って。松井康成さん()の作品なども、陶芸美術館に行ったら必ず見に行きます」





 松本さんの工房におじゃますると、いろいろな陶の動物が出迎えてくれます。玄関には鳥や、いままさに作陶中という窯に入るぎりぎりまで大きく作られたカバ。どれも心をつかまれる、愛らしさに満ちた作品です。「動物は1年くらい前から作り始めるようになりました。抽象的なオブジェは、見る人が感想を述べにくい。人と話すきっかけになるかと思って具象の動物を作ったんです」。立ち上がったミーアキャット、首を回した瞬間のふくろう。上野動物園などに出向いては、よく観察して作陶するのだとか。
 陶器なのに木目のお皿、生きているかのような陶の動物。それをきっかけとして話題が広がる仕掛けが、松本さんの作品には込められています。




kikusa





 木目シリーズのお皿を携えて出掛けたのは、石岡のフラワーパーク前に2014年4月にオープンしたkikusa。木工作家の清水将勇さん・文さんご夫妻のお店で、文さんがつくるフレンチトーストとハンドドリップコーヒーのおいしさが評判です。店内には将勇さんの木工作品が展示販売されており、お店での飲み物は「KIKSAカップ」で味わうことができます。
 木目シリーズの角皿を取り出してテーブルに置くと、お二人でご覧になって「…木のお皿かと思ったけど、持ち上げたら重い!」「これが陶器なんですか?木が自然に作り上げるゆらぎ感までちゃんと出てる」と口々におっしゃいます。「木目が杉っぽい」という、木工作家ならではの言葉も。
 将勇さんは普段は主に杉材を使い、家具や食器を制作しています。特徴的なのはその杉に草木染をほどこしていること。「木工は大学を卒業してから職業訓練校や工芸家の下で、また琴屋や木工所に勤める中で勉強しましたが、草木染は独学です。染料も、自然の草木を集めて来て自分なりに作っています。稀少な高級材を使って作るのではなく身近にある杉を有効利用したかったんです。そこに、人とは違う何かを加えたくて草木染を試してみたら、杉がぴたっときたんです」
 いま将勇さんが模索しているのは、まさに松本さんが陶器で作り上げた淡いグリーンのような色合いだとか。「一目見てびっくりしました。作り出したい色がこんな色だったので…」
 お話を伺っている間にも、店内にはバターの香ばしい香りが。文さんの作るフレンチトーストは 自家製天然酵母使用の田中農園ペトランのバゲットに、お手製のバニラアイス、レモンシロップやりんごのコンポートを添えたもの。そしてコーヒーは銀座のコーヒー専門店出身の方が焙煎したものを仕入れています。そのおいしさに、開店日には遠くから通うファンも。
 「松本さんの器は草原のような緑色で、木のカップを載せても合いますね。木目は和でも洋でも受け入れてくれます。この器も、なんでも合うのではないでしょうか」と文さん。
 kikusaカップの木目と陶の木目が見事に調和しています。





 木も土も自然のもの。そこに作ることに真剣な人々の手が加わると、こんなにも使いよく、こんなにも日々を愉しくさせてくれるものが出来上がるのだと思いました。(しばた あきこ)

※笠間市ゆかりの陶芸家で、重要無形文化財「練上手(ねりあげで)」保持者(人間国宝)。伝統技術を基盤にしながら現代の個性豊かな陶芸のあり方を提示した。





DATA:

kikusa

石岡市下青柳547-3(茨城県フラワーパーク前)|Tel.090-9830-1022
営業時間|11:00〜18:00
定休日|月・木・金曜日
HP|http://www.ookamiwood.com





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