ご利用規約プライバシーポリシー運営会社お問い合わせサイトマップRSS

第一話〜第十九話はゆたり出版の「かさまのうつわ」に再編集し収録されています。「かさまのうつわ」はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[かさまのうつわ] 記事数:19

< 次の記事 | 前の記事 >


第十三回 鈴木美汐さん

このエントリーをはてなブックマークに追加



 バウム、ロゼ、ラウルなどのシリーズ名がつけられた鈴木さんの器。それぞれに木の年輪や花びら、ローリエの葉など自然から得た着想が表現されており、名前と響きあって笠間焼でありながら異国の香りを醸し出しています。

 「高校生のときドイツのデザインに興味を持つようになりました。プロダクトデザインとか、文房具とか電化製品とか…無駄が省かれていて機能的。教科書を開けば音楽にしても哲学にしても、ドイツ人のことがたくさん出てくる。そういうものを見たり読んだりするうちにドイツに魅かれ、ドイツに行きたい!と強く思うようになったんです」。美術部に所属して油絵を描いていた美汐さんは、美大と語学どちらに進むか考えた末、麗澤大学外国学部ドイツ語科に入学。2年生のとき、西ドイツのビーレフェルト大学に1年間留学します。「ドイツではいろいろな人に出会って、御縁をつないでいった1年でした。友人の紹介で大学に通う傍らアートスクールのデッサン教室に通ったり、トルコ人の画家と知り合ってその方のアトリエに通ったりもしたんです」





 帰国後、大学4年生で学生結婚し、卒業後出産。ドイツに住みながらデザインの勉強をしたい、という夢をいったん心にしまって子育てをする生活が始まります。お子さんが3歳になったころ自宅で英語の教室を始め、その後、県のパスポートセンターや外資系の会社で翻訳などの仕事をした美汐さん。
 学生から一足飛びに一児の母となり、仕事もこなす目まぐるしい日々の中、30歳が目前になったとき、ふと立ち止まります。「私は本当にやりたいことをやっているのかな、子供はどんどん大きくなって離れていくだろうし、このままでいいのかなと思ったんです。仕事も、ツールだったはずのドイツ語に執着していて、実は本当にやりたいことをやっていないんじゃないかって」。心の中のドイツへの思いを一度封印して身近なものを見ていこうと考えたといいます。





 「もともと物づくりやデザインに興味があって。それまで外国にばかり向いていた目を地元に向けてみたら、陶芸がありました。身近過ぎてそれが自分にできるかどうかすらわからなかったけど、手始めにカルチャースクールで陶芸を始め、そうしたら楽しくて1年くらい通ったかな」。その後、窯業指導所に入所し2005年に成形科修了。額賀章夫氏に師事し、さらに窯業指導所の釉薬科を修了。2009年に独立します。

 「土という素材はとても自分に合っていると思うんです。焼きあがっていくプロセスが面白いし、達成感もある。ほかの素材では味わえないのではないでしょうか」
 独立して5年目の美汐さんの器にはファンも多く、数々の雑誌に掲載され、首都圏での取り扱い店も増えています。使いやすさを考えた作りも人気の理由の一つ。「プレートなら安定感、カップは軽目に。後片付けのときの扱いやすさも大切だと思うので、洗ったときに指がかかるよう高台()の内側の角度にも気を付けて、使い手目線で作るよう心掛けています」





 釉薬の色は、数限りない試行錯誤を経て得ました。「ロゼシリーズのピンクは、ある日ハスの花びらを拾って、こんな色を出したいなと思って。ラウルの緑は、あの震災の後何か癒されるものを作りたいと研究し、森のシリーズを始めたんです」

 「私の焼き物には日本の『わびさび』というよりも、外国の光が合う気がするなあ」と笑う美汐さん。陶芸の道を進む間ドイツのことは意識の下に置いていたのかもしれませんが、どの作品にも「美汐さんのドイツ」がにじみでているようです。「いつも、ものを作ることには責任があると思っています。地球から材料をもらって、自然からの恩恵で作っているでしょう。だから自然に恩返しをしたいという気持ちがいつもあります。ドイツで学んだことの一つが環境についての考え方。ドイツでは物を作る人は、その最終段階、廃棄物になるまで責任を持たなくてはいけないんです。その考え方に影響され、私は作ることの先にある、壊れてしまったものを繕うこと(金継など、ものを修繕すること)に関心がありますし、繕う仕事を尊敬しています」




ちどり





 ひたちなか市に2012年にオープンした「とうふ おから とうにゅうの店ちどり」。以前は笠間市で大谷石倉庫を改装したカフェを営んでいた、黒澤聡さん・みゆきさんご夫妻が、震災後心機一転始めたお店です。都内などで8年間フレンチのシェフをなさっていた聡さんのお料理は、豆腐・おから・豆乳、そして茨城県産の野菜などがたっぷり使われており、その盛り付けは目の前に運ばれてきたとき思わず歓声を上げてしまうほど綺麗。そしてヘルシーな食材と優しい味付けが体と心をほっとさせてくれます。また、バター・卵不使用の「ちどり生おからべーぐる」はいばらきデザインセレクション2013で選定を受けました。

 ちどりと道路を挟んだ向かい側にある「花ちどり・ぎゃらりーマドベ」では、陶器・鍛金・ガラスなどさまざまな作家の作品が展示販売されており、定期的に個展なども開催されています。笠間焼のファンだったお母様の元で多くの焼き物に囲まれて育ったみゆきさんの選択眼を通した作品の展示は常に注目を浴びています。多くの作家や作品からどうやって選んでいるのでしょう。
 「展示を決めるのは、一眼レフカメラでの撮影に似ているかもしれません。見方と考え方の自分なりのプロセスに基づいて、その時の気持ちの真ん中に焦点を当てている、そんな感じなんです」

 ご自宅でも美汐さんの器を使っているというみゆきさん。「美汐さんの器にはシリーズ名がつけられていて、特別感があります。こんなふうに名前を付けているのはあまり聞いたことがありませんね。そして印象がきりっと際立っていて、笠間焼きだけれど雰囲気はまるでヨーロッパのお皿みたい。今日ポトフをよそった『ラウル』。存在感がありながらどんな器ともなじむのもいいですね」

 みゆきさんが日々心を砕いているのは、聡さんのお料理をどう引き立て、提供するかということ。「お客さまに料理や器を楽しんでいただける場所にするには、“こうじゃなきゃいけない”というこだわりより“こんなときはこうしたらどうなのかな?”という試行錯誤が大切なような気がするんです」





 そのみゆきさんの言葉を聞いて、偶然美汐さんも同じ内容のことを言っていたのを思い出しました。「昔は“こうじゃなくちゃいけない”と思って動いていました。自分はドイツに行かなくちゃと、外ばかり見ていた。でもそれを一度捨てて今いる場所で探そうと思った時から次々と見えてきたものがあります。モノを作りたいという原点に戻れて、外国に誇れる日本の陶芸に出会えた。今度ドイツに行くときは誇りをもって日本の陶芸を紹介したいなって思うんです」(しばた あきこ)

※高台(こうだい):茶碗の胴や腰を乗せている円い輪の全体。容器を置いた際に台に接する足の部分のこと。





DATA:

ちどり

茨城県ひたちなか市東石川2897-1|Tel.029-273-1178
営業時間|11:00〜22:00(LO 21:00)
定休日|月・火曜日(祝日の場合は営業し、翌日お休みの場合があります。詳しくはHPをご確認ください)
HP|http://chidori-z.com

>ゆたり掲載記事はこちら http://www.yutari.jp/club/CafeRestaurant/cC120403.htm





ページの先頭に戻る▲

[かさまのうつわ] 記事数:19

< 次の記事 | 前の記事 >

新着情報

» かさまのうつわ
» カテゴリ



「ゆたり」は時の広告社の登録商標です。
(登録第5290824号)