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おっちゃん 〜別れの春〜

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今日は年度末3月31日。新聞には教職員移動の特集が折り込まれていた。
◯との中学校、◯えの小学校、どちらも別れが惜しい先生が名を連ねており、残
念で仕方がない。だが最も残念な職員の一人は、この移動特集に載っていない。
その方は◯との通う中学校の用務のおっちゃんである。

おっちゃんとは言ってもまだ50代だろう、力仕事も難なくこなせるくらい充分に
若々しい。いつも首にタオルを巻き、黒いゴム長スタイル。そしてにこにこ笑顔
で校内を闊歩していた。元気の無い生徒を見かけると「ほれ」と、ジャンバーの
ポッケから飴やら煎餅やら出してひょいと差し出す。
この学校は風紀に厳しく、特に菓子類の持ち込み、校内での飲食にはいつも目を
光らせている。見つかったらきつく叱られる。それを知らぬはずはないのに、お
っちゃんの動きには迷いが無い。恐れを知らぬ生徒はお腹が空くとおっちゃんを
探し「おっちゃん腹減った」と訴える。するとおっちゃんはジャンパーのポッケ
に手を突っ込んで、何か探してくれるのだ。



おっちゃんは時々カメラを持ち歩き、部活の練習の様子や運動会の写真などを撮
ってくれる。ご大層な集合写真なんかじゃない、撮られてることも気付かないよ
うな自然なスナップばかり。できた写真に映っている子を見かけると、「ほれほ
れ、この前の」とにこにこ顔で渡してくれる。

用務員室には小さな流しとコンロがあり、奥には6畳ほどの和室がある。隣は心
の相談室、廊下を挟んで真ん前は保健室だ。だが心の相談室より保健室より、用
務員室に安らぎを求めに行く子も多い。何かの拍子に心が弱って教室に入れなく
なった子がふらりと訪れると、おっちゃんは何も聞かず「茶でも飲むか?」とお
茶をいれカントリーマァムをご馳走してくれる。時には奥の畳でごろんと寝転が
り、教室のドアを開ける力がチャージされるのを待つのだ。
指先に小さなケガをした女子生徒も行き先は用務員室だ。部屋の中にはマキロン
やキンカンが袋に入ってぶら下がっており、絆創膏も体温計もある。処置をして
もらうための説明など抜きに、「おっちゃんケガしちゃった」と言えば「ああ、
たいしたことねぇな、勝手に使え」と返事が来る。

そんなおっちゃんが退職すると聞いた生徒たちは、しばらく前からノートに寄せ
書きを始めた。春休み中の今日も、用務員室を訪れた何人かが「おっちゃん何で
辞めちゃうんだよ、次どこ行くんだよ」と話しかけると、おっちゃんはこう答え
たそうだ。「オレ明日警備会社の面接なんだよ、受かったらこの学校の警備員希
望すっからな」するとその場にいた生徒たちは口々に「だったらこのノート面接
に持ってけよ、そんで特技は何ですか?て聞かれたら、子どもに好かれることで
すって答えんだよ!それでも駄目ならみんなで署名でもするからさ、おっちゃん
頑張って帰って来いよ!!」
ここまで聞いてワタシは不覚にも涙が出て来た。そして◯とに尋ねた。「おっち
ゃん嬉しくて泣いたでしょ」「ううん、女子は何人か泣いたけど、おっちゃんは
泣かなかった。そのあとうちらの部活にきて写真撮ってくれて、その時もおっち
ゃんは泣かなかった」

お菓子も写真も決して全生徒に平等にあげているわけではない。おっちゃんの気
まぐれ次第に違いない。校則違反を恐れて、おっちゃんの好意を拒む子もいる。
だからと言って「学校の職員が規則違反やえこひいきをするなんて」と憤慨する
父兄がいたら、一年中風邪でもひいてろ。
中学生なんてまだまだ善悪の判断に誤ることも多い。しかし、子どもに取り入る
ための作り笑顔の優しい大人と、懐のあったかいとこから湯気の出てる大人を見
分ける目は確かだ。
こんな大人が子どもの身近にいてくれたことに、心から感謝。
おっちゃん、ありがとうございました。
警備員になって帰ってきたら、カントリーマァム大袋で差し入れするからね。

Trackback(0) Comments(9) by Yamepi|2008-04-01 09:09

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