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「ひとが輝くまちの学校」はゆたり出版の「ゆたり文庫 地方に暮らす。シリーズ02 ひとが輝くまちの学校」に再編集し収録されています。書籍はネット通販、書店、販売協力店でお買い求めできます。詳しくは本とゆたりをご覧ください。


[地方に暮らす。[ジョウモウ大学編]] 記事数:11

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|第八話|活版印刷のある街 技術を守るということ 後編

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 かつては活版印刷で刷られた書籍も、街の本屋さんの棚に並んでいました。その光景は大昔というほど過去のことではありませんが、今やすっかり古本屋さんの棚が定位置。活版印刷を知らないという人も多いと思います。
 ところがその「技術」を取り巻く状況には、ここ数年、ある変化が起きています。活版印刷の技術を体験する一般の人向けのワークショップを個人のグループが開催したり、なかには活版印刷機を購入して仕事を始める人もいるといいます。





活版印刷の魅力

 活版印刷の仕組みは、文字などが彫られた活字にインクを付け、上から圧力をかけることで紙にインクを転写するというもの。設備や技術などによって、仕上がりに差が生まれやすい特徴があります。
たとえば、圧力のかけ具合で紙に凹みができたり、同じページの中で印刷濃度に違いが出たり、時には活字の劣化で文字の一部が欠けてしまったりすることも。
 正確さが求められる現場にあっては、決して「良し」とはされないことですが、機械なのにどこか人間味も感じられるような、デジタルにはない独特の風合いに惹かれる人が増えているようです。
 ジョウモウ大学の佐藤さんと殿岡さんは、広栄社の設備や活版印刷に関する書籍を紹介するなど、復旧作業に集まってくれた人たちへ、活版印刷について伝えることもされています。おふたりが考える「活版印刷の魅力」についてお聞きしました。


佐藤:めちゃくちゃ「面倒くさい」というところが面白いですよね。私は普段Macを使ってデザインをしていますが、キーボードをカタカタッと打ってプリントすれば簡単に文字は出ます。でも活版印刷の場合は、まず活字棚から文字を見つけて、組んで、印刷する。何十倍も時間がかかるわけです。
それぞれの仕上がりを比較してみると、全く違うんですよ。活版印刷で刷られたものは、印刷したっていう感じがすごい伝わってくる。活版印刷ならではの雰囲気なんですよね。同じ文字でも説得力が違う。それを出すのは、デジタルの場合そう簡単なことではないんです。
そこに面倒くさいことの理由が「集約されている」気がします。
パソコンでデザインするようになったのはここ20年位ですが、活版印刷の歴史は何百年もあるわけで、人の手で、文字が一字、一字、彫られていた。そこに想いを馳せると、すごいなって思いますよね。


殿岡:もともと僕は古い本や印刷物が好きなので、普段古本屋で買って読んでいる本も活版印刷だったりします。昭和40年代以前のものは大半が活版印刷で刷られていますね。
活版印刷で刷られた本は、今のオフセット印刷で刷られたものに比べて字が「立っている」というか、ページに立体感があるように感じます。活字の劣化とかメーカーの違いで、すごく微妙な「リズム」というか「ブレ」というのがページに出てきて、それが味になってくるんだと思うんですよね。
今はデジタル化によって均一なものがあたり前になっているから、こうしたブレとか歪みが逆に新鮮に見える。デジタルには出せない味とか風合いとか、ビジュアルの面で、これは活版印刷じゃないとできない、ということがある。そこが活版印刷の魅力じゃないでしょうか。



写真は日本の活版印刷機「HASHIMOTO」(橋本鉄工所製)。職人さんが目で確かめながら繰り返し印刷の加減を微調整していました。広栄社ではドイツの活版印刷機「プラテン」(ハイデルベルグ社製)も現役で稼働しています。



技術を守り、伝えていく

 改めて脚光を浴びる活版印刷。ではこの先の未来は明るいかというと、残念ながら、そうとは言えません。既に印刷の中心を担うのはデジタルのオフセット印刷です。今後、需要が増えていく将来が見えないなかで、印刷会社が企業として活版印刷を維持し続けることは、簡単なことではありません。
広栄社の江原さんが存続を悩まれたように、実は地震で被害を受けることが、活版印刷の廃業につながってしまうケースは、決して少なくないようです。
あの震災では、広栄社と同じように被害を受け、活版印刷の存続を諦めざるをえなかった印刷会社もあったのかもしれません。


江原:震災後、一時は処分も考えましたが、今は180度変わりました。こんなに大きな反響をいただいて、とても励みになりましたし、手伝ってくださった方々への感謝の気持ちもあります。群馬でこの規模で続けているのは、もううちくらいだと思いますので、これは残していかなければ。
ある意味、震災が活版印刷のことを知ってもらうきっかけにもなったんですね。それまでは知らない人もいたでしょうから。
できればいつか、何かの形で子供たちにも伝えられたら、と考えています。昔はこうして、一字、一字、手間暇かけて印刷していたということを。物づくりっていうのは、簡単にできてしまうものではなくて、いくつもの過程を積み重ねてできるんだよ、といつか教えてあげたいですね。


佐藤:ジョウモウ大学の情報発信はインターネットが中心でしたが、今回の復旧作業の活動については、新聞やテレビでも紹介していただけたので、普段あまりインターネットの情報に触れない人など、より多くの人たちに、広栄社さんや活版印刷のことを知ってもらうことができたと思います。
パソコンでデザインする時代の隆盛のなかで廃れていってしまったわけですが、以前はどこの印刷会社にも必ずこの活版印刷の設備があったわけです。
群馬にも多くの印刷会社がありますけど、今では広栄社さんでしか仕事を受けられなくなっている。
活版印刷の技術は、群馬に限らず、日本全国で考えても貴重な文化だと思うので、継承していく必要がありますよね。


殿岡:復旧作業が完了したら、今後は広栄社さんでジョウモウ大学の大学院向けの授業を開催する予定なので、その準備もしているところです。
それから、ジョウモウ大学活字部は永久に不滅です!形は変わっていくかもしれませんが、これからも皆さんと一緒に活版印刷の活動をしていきたいと思っています。
引退された個人の方から譲っていただいた印刷機もあるので、誰でも気軽に参加できるワークショップなどができないか、佐藤さんたちと考えているところです。
これは僕の勝手な願望かもしれませんが、ただ残るだけじゃなくて、注文がきて、製作して、ちゃんと利益を上げる、そういう形で活版印刷に残っていってほしいです。ただ機械を置いておくだけじゃダメで、やっぱり技術は使ってこそですから。
まずは自分が勉強するところからですけど、できればなんとか、この技術を次の世代に伝えていければいいな、と思っています。(Miki Otaka)


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