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音訳/耳で読む本

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音訳とは、主に視覚障害のある方のために文字や図表等の情報を音声化すること。



駅の券売機や横断歩道の点字ブロックなど、日常の様々な所で点字を目にすることができますから、身近に視覚障害者のいない人の多くは、全盲や弱視の人々はこうした点字によって情報を得たり、本を読んだりしていると思っているのかもしれません。

しかし実際は点字を活用できている人は、視覚障害者全体の1割程度に過ぎないそうです。


生まれつき、もしくは幼小児期から視覚障害のある方は、盲学校に通うことで点字を含むあらゆる訓練を習得できます。しかし大人になってから、病気や事故など、なんらかの理由で視力を失うほうが割合的には多く、特に41歳以上からの中途視覚障害者が全体の半数を占めています。

ですから、視覚障害を持つ方の9割近くが、生活のすべての情報を『音』に頼っているのです。








子どもが生まれて間もない頃から、ほとんど毎晩寝る前には本を読んでやるのが日課になりました。せがまれるままに、時には1時間以上も絵本を音読をしてやる夜が15年は続いたでしょうか。

おかげで2つの良いことがありました。1つは、子どもたちが2人とも本が大好きな子に育ったこと。そしてワタシ自身が音読の魅力と威力に気づいたこと。


子どもたちが成長して就寝前の儀式を卒業したあと、これからはよそのお子さんに読み聞かせをしてあげたいと思いました。そのためには技術的にもっとうまく読めるようになりたいが、さてどこで修行をしたら良いのだろう。

ちょうどそんな時に、茨城県立点字図書館の音訳奉仕員養成講座の募集を見つけました。2年間の研修を受けて音訳の技術を学ぶというものでした。


まず最初に、小説を朗読して録音してくるという宿題が出ました。課題図書は確か藤沢周平の時代小説の一部でした。たった2枚のプリントを何度も何度も読み返し、登場人物毎に声色を変え、情景が浮かぶように自分なりに工夫して、納得のいくものを提出しました。

ですが、音訳に求められる読みは、読み聞かせのそれとはまったく違うものでした。



音訳とは「音訳者の主観を入れることなく」「書いてあることを忠実に音声化する」ことが原則であり、「上手に読むことではなく」「正しく伝えること」なのでした。


役者のように情感たっぷりに録音された音訳図書では、生活のすべてを音に頼る利用者の方にとっては聞くのがつらくなってしまうのです。あくまでも私たちが本や新聞を読むように、まずは文字がただの情報として脳に届くこと。そこから先は読み手(聞き手)が自由に想像をふくらませることができるような、そんな読み方が理想なのです。

ですから、それから2年間の養成講座は、発声のメカニズムや正しい発音の習得、息継ぎを感じさせない録音法等、一字一句間違いなく、ニュース原稿を読むアナウンサーのように、感情を入れずに読む技術などを練習し、まずは新聞のテレビ欄を読むことから始まりました。


期待していたこととは異質の音訳作業に、当初は正直がっかりしました。

原稿の内容を完璧に把握するための地道な調査。自己表現の許されない孤独な録音作業。苦労して仕上げた録音図書を利用する人の反応が見える訳でもなく…。
子どもたちのわくわくした瞳を感じながら、思い入れたっぷりに読み聞かせる朗読とはまったく違うのですから。



音訳の仕事はいわば黒子。自分の思いを抑え、お会いすることの無い利用者に直接お礼を言われることもありません。

ですが、淡々と音訳されたテレビ番組表を聞いて、「大好きな指揮者の演奏がある!」と明日の楽しみを見いだす人がいるかもしれない。『医道の日本』(鍼灸専門書で茨城県点字図書館のライフワーク)を聞いて、「そうだったのか!」と疑問が解決する人がいるかもしれない。運命の本に出会い、感動で心を震わす人がいるかもしれない。


参加の同機となった朗読のスキルアップとはだいぶ方向性が違ったけれど、自己を滅し、慎ましくも奥深い音訳の喜びを見いだすことができたことは、今もワタシの思考の片隅に、小さな回路として組み込まれていると思います。




昨年8月に出版されたワタシの本が、数ヶ月前に音訳図書にしていただけました。
ありがたいことに貸し出しの要望も順調にあるようです。
もしかしたらこの夏、この音訳図書を聞いて夏の贈りものを決めてくださった方がいるかもしれない。そんなことを想像するだけで、とても幸せです。


この本を推薦し音訳してくださった奉仕員の神谷さんと、その実現にお力添えをくださった茨城県立点字図書館の福地さんに、心から御礼申し上げます。

ありがとうございました。






         音訳奉仕員から遠のいて久しくなりますが
          いつかまた復帰したいと思っています
             ☆茨城県立点字図書館☆




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» Tags:音訳, 茨城県立点字図書館, ほんのきもちです茨城のおいしい贈りもの,

Trackback(0) Comments(8) by Yamepi|2012-08-12 22:10

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