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[ゆたり日和[特集]] 記事数:2

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◎ゆたり日和[特集]

中之条ビエンナーレ[前編]
山あいのまちの現代アートプロジェクト

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 いつの間にかすっかり高くなった空に、夏の終わりを不意に告げられたような8月後半。山あいの曲がりくねった道を車で走ると、うっすらと金色を帯びた田園風景が現れ、山にはもっと足早に秋が近づいていることを流れる景色が伝えていました。 
 中之条町は群馬県北西部にある山間地域のまち。現在ここで、2年に一度の現代アートの祭典『中之条ビエンナーレ2013』が開催されています。開催前のまちを訪ねました。
(会期:2013年9月13日〜10月14日)






はじまりの動き


 森林が土地の8割以上を占め、里山の風景や、山村文化が今も大切に残されるまち。会期中は、廃校になった校舎、元日本酒醸造所、空き店舗、古民家、山あいの温泉郷、それから森のなかも。いたるところが会場となりまち全体が現代アートに染まります。
 2007年の第1回から回を重ねるごとにその名前は広く伝わり、2011年の前回は、1ヶ月間で人口1万7千人のまちに35万人もの人が訪れたといいます。





 はじまりの動き。それは作家たちから起こりました。まちにあった小さな美術学校のもとに集まり、その後、廃校になった元中学校(「伊参スタジオ」)の教室をアトリエとして共同で借りていた数人の作家たち。全員中之条にゆかりはなく、仕事をしながら制作のためにまちへ通って来ていました。
 そうした言ってみれば「よそ者」の若者たちが、2006年のある日、アートイベントを開催したいとまちに提案します。一緒に添えられたチラシには、既にしっかり『中之条ビエンナーレ2007』と記されていました。



作家さんとの最終確認真っ只中。全会場を駆け巡っていた山重さん


 総合ディレクターを務める山重徹夫さんは、まちに企画を持ち込み、役場の担当者に直談判した、その人。
「みんなと廃校の音楽室を共同アトリエとして借りてから、制作したものを東京で展示したりするのではなく、このまちで発表するべきだと感じるようになったんです。僕はベニス・ビエンナーレが好きで、いつか日本でも地方のアートイベントを、とずっと考えていたのですが、ここなら僕がやりたかったことができると思いました」

 しかし当時は美術学校の閉校が決定していたこともあり、まちの意識はアートから遠く、提案は受け入れられませんでした。山重さんたちはまちに協力してもらうことを諦め、自分たちの手で開催することを考えたといいます。この中之条でアートイベントを実現する。そのことに強い想いを持っていました。

 けれど、あることをきっかけに開催に向け、大きく動き出すことになるのです。それは当時40歳という若さで当選した町長(前)と山重さんたち作家が、他県のアートイベントを一緒に視察したことでした。同行した町役場の人が書いたものには、そこでの光景が町長や役場の人に新鮮な驚きを与えたことが記されています。
 見慣れたはずの中之条とよく似た農村が、非日常の雰囲気に包まれ、多くの人が集まる魅力的な場所へと変わっていたのです。それは間違いなく、アートの力でした。



共同アトリエがあった廃校・伊参スタジオは、大事な繋がりをもつ場所



手作りのアートプロジェクト


 今年第4回を迎えた『中之条ビエンナーレ』は、たくさんの人が様々な形で関わり共につくりあげていく、手作りのアートプロジェクトです。
 「アーティスト・イン・レジデンス」という滞在制作プログラムがあり、開催1ヶ月前から無料宿泊所・レジデンスには「森の食堂」がオープンします。実は今回、1ヶ月間調理できる人がなかなか見つからず、一時はオープンが危ぶまれたのだとか。そのピンチを救ったのは、まちの婦人会やご近所仲間のお母さんたちでした。
 レジデンスはまちの中心から離れた所にあるため、現地へ行くのは難しいというお母さんも。そこで知恵を絞り編み出されたのは実行委員とお母さんたちの協力です。お母さんは家でおかずをつくり事務局へ、それを実行委員がレジデンスへ車で運び、ご飯とお味噌汁をつけて完成させる。そんな見事な連携プレーと、現地で調理してくれたお母さんの頑張りのおかげで、無事1ヶ月食堂を運営することができたそうです。
 この森の食堂は、単なる「食堂」というだけでなく、食卓を一緒に囲むことで作家同士が交流したり、今後の新しい展開が生まれることもある、大切な場所だといいます。今回その真ん中にあったのは、お母さんたちがこしらえた地元野菜たっぷりの手作りごはん。表には決して見えてきませんが、プロジェクトの陰には、こうした裏方を支えるまちのお母さんたちの存在がありました。





[写真上]「森の食堂」作家さんたちが夜遅くまで美術論を交わしたり、時には恋の話も[下]レジデンス厨房。この日はご近所仲間のお母さんと実行委員が共同でごはん作り。レシピを教え合ったり愉しい雰囲気。



 プロジェクト全体を支えるのは、町役場の事務局と、実行委員会です。実行委員会のメンバーはまちの人が中心ですが、町外や県外から参加している人もいるといいます。今年の開催に向け、2年前から準備を進めてきました。
 まち全体が会場になるということは、美術館などでは考えられない、日常的な事柄が鑑賞の妨げになったりもします。たとえば、草木の生茂る会場もあれば、長く人の手が入らない古い建物が会場の場合もあり、草刈りや掃除は大事な作業です。
 しかも状況が異なる各会場毎に気を配らなければならないため、やるべき事は山のようにあります。開催を2週間後に控えた会議では解決すべきテーマが次々出され、話し合いは夜遅くまで続きました。



ほとんどの実行委員は自分の仕事を持ちながらの参加。副実行委員長の桑原かよさんは「みんなでつくりあげる“大人の文化祭”のような愉しさもありますね」



変わらないもの


 最初のビエンナーレ開催から6年が経った現在、プロジェクトを取り巻く状況は変化し、今後の課題もあるといいます。でも、たくさんの人が育ててきた『中之条ビエンナーレ』は、これからも同じ想いを持つ人が集まり、考え、工夫しながら、道を進んでいけるのかもしれません。はじめたときの一歩のように、前だけを向いて。

 最後にご自身の制作について山重さんにたずねた際、たぶん自分はもう作家ではなく人に伝えることが役目です、と言って、言葉をこう続けました、
「ビエンナーレをはじめる時、一人じゃなくて、みんなとしかできないことをやろうって決めた記憶があります。分かち合える仲間と一つのものをつくる。もちろん喧嘩をすることもあるけれど、仲間とは喜びも分かち合える。やっぱり、そういうことができる場所だと思います、中之条は」。(MikiOtaka)




■お問い合わせ
中之条ビエンナーレ2013
実行委員会事務局

〒377-0424 群馬県吾妻郡中之条町大字中之条町926-1
TEL.0279-25-8500(会期中 木曜定休)
公式ウェブサイト http://nakanojo-biennale.com/
主催|中之条ビエンナーレ実行委員会  共催|中之条ビエンナーレ運営委員会


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