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[ゆたりやの亭主] 記事数:256

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寺島柾史文学蔵 ──骨と肉片を拾い集めて──

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 寺島柾史は筆者の祖父にあたる。しかしながら、筆者が産まれる前に亡くなっているため、一度もお会いしたことはない。柾史が文筆業を営んでいたことは子供の頃から時々聞かされていた。伝記や少年向けの冒険小説を執筆していたこと。夜に仕事をするため昼間はあまり顔を見ないこと。東京空襲で練馬の家が焼けてしまい、作品の殆どが焼失してしまったことなど。祖父柾史についてのイメージは故寺島國生(父)から聞かされた断片的な話しだけだった。勿論、自宅には一冊も柾史の本は存在しなかったし、筆者が高校を卒業するまで一度も柾史の著作を目にすることはなかった。

 実際に柾史の作品を初めて手にしたのは、札幌の故寺島順一郎(伯父)の家を訪ねた昭和53年4月(1978)だった。後に伯父が港の文学館(室蘭)に寄贈した、単行本の「怪人島」であったと思われる。その後、昭和56年(1981)に立風書房から復刻された、北海道文学全集第18巻に掲載の「孤島病」、昭和61年(1986)に三一書房から発行された少年小説体系第8巻空想科学小説集に掲載の「怪奇人造島」の二作品を父が購入し手元に残った。


 筆者が柾史の作品収集を始めるきっかけとなったのは、平成12年7月(2000)に伯父から送られてきた「根室市博物館開設準備室だよりNo.15別冊/根室出身の作家寺島柾史と文献目録」だった。「根室市博物館開設準備室(現在の根室市歴史と自然の資料館)」の尽力によって、約60冊におよぶ単行本や多くの新聞・雑誌への連載寄稿など、柾史の作品目録が次々と明らかになったのだ。また、伯父順一郎もこの冊子の中で「父寺島柾史のこと」を寄稿しており、柾史の人柄がわかりやすく記されている。この文献目録や伯父の寄稿文に刺激され、柾史のことをもっと知りたくなったのが作品収集活動の始まりだった。


 筆者にとってバイブルとなったこの目録をもとに、北海道から九州まで全国のインターネット古書店目録や検索エンジン、全国図書館ネットワーク、プランゲコレクション占領統治下の雑誌目録など、急速に拡大するインターネットでの検索網が柾史の作品収集を現実にしてくれた。


 柾史の作品を集めるのはなかなか容易なことではない。柾史は國本社在籍時代(昭和初期)からペンネームを巧みに使い分けているからだ。一冊の雑誌に二つ以上の作品が掲載される場合には、寺島柾史、白木陸郎、歌古川文鳥などの著者名を使い分けることがわかっている。これ以外にも多くのペンネームを使っているらしく、実際見落とされている作品はまだまだ存在すると考えられる。また、インターネット検索には限界を感じることも多々ある。雑誌の著者詳細表示がないため、見つけ出すには相当な苦労を要する。柾史が疎開した北海道内の出版社から発行された戦後の雑誌も大変稀少だ。特に人気のある戦前の冒険小説は、雑誌・単行本ともに高価でマニアの競争が激しく入手が難しい。


 苦労して手に入れた作品を読んでいると、まるでばらばらに散乱した骨と肉片のかけらを拾い集めているような気持ちになってくる。作品をパズルのごとくつないでいくことで、徐々に知らなかった祖父柾史の人柄や生き方を知ることができるからだ。


 デザインを生業にしている筆者にとって、創造するためのエネルギーは並大抵のものではなく、どんな作品にも魂が込められているはず。だから、祖父の作品も一冊一冊が血であり骨であり體の一部なのだと思うのだ。
 ここに紹介する120点に及ぶ作品目録は、一人の孫が祖父を知るために集めた作家寺島柾史の體のほんの一部分にすぎない。また、数少ない資料をもとに個人的な解釈を加えたもので、文藝評論や学術論文といったジャンルとはまったく無縁のものだ。願わくば、祖父とその先祖の供養になればと思い、ここにささやかな記録として残すことにした。この「寺島柾史文学蔵」をVersion 02としたのは、「寺島柾史蔵書目録」Version 01を平成16年2月(2004)に手作り製本し、限定五冊だけ発行した経緯があるためだ。


 執筆にあたって作品名や当時の文章を抜粋したものについては、できる限り旧漢字を使用しオリジナルを再現したが、旧フォントがないものについては省略した。原物を入手していない巻末の文献目録の多くについては、本田克代氏の「根室出身の作家寺島柾史と文献目録」木原直彦氏の「寺島柾史のこと/室蘭文学」「北海道文学史/明治編/大正・昭和・戦前編/戦後編」北海道新聞社発行の「北海道文学大辞典」のほか、プランゲコレクション、国立国会図書館、などさまざまな論文・著作・資料を参考にさせていただいた。

» Tags:はじめに,

Trackback(0) Comments(2) by Yasumine|2008-06-24 12:12

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